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東京高等裁判所 昭和27年(う)1562号 判決 1952年9月16日

控訴人 被告人 張賛容

弁護人 鈴木喜太郎

検察官 軽部武関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣旨は末尾添附の弁護人鈴木喜太郎の差し出した控訴趣意書記載のとおりである。

鈴木弁護人の控訴趣意について。

被告人に対する本件被告事件について昭和二十六年九月二十七日宇都宮地方裁判所足利支部は被告人を懲役六月に処する旨の判決を言い渡しこれに対し被告人は控訴の申立をなし、昭和二十七年一月三十日東京高等裁判所は原判決を破棄し本件を宇都宮地方裁判所栃木支部に移送する旨の判決を言い渡し、昭和二十七年三月十八日宇都宮地方裁判所栃木支部は被告人を懲役五月及び罰金二万円に処し但し懲役刑については三年間執行を猶予し罰金不完納の場合においては金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する旨の判決を言い渡したことは所論の如くであるが、本件の如く被告人のなした控訴により第一審判決が破棄せられ事件が原裁判所と同等の他の裁判所に移送された場合において該裁判所のなす判決は第一審としての判決であるからかくの如き場合においては刑事訴訟法第四百二条は適用せられないものと解すべきである(昭和十五年七月十日大審院判決参照)それゆえ所論はその前提において失当であるのみならず、破棄移送前の第一審判決と破棄移送後の第一審判決の刑の軽重を実質的に考えても後者の刑を以て前者の刑より軽いと認むべきことは昭和二十四年七月五日最高裁判所第三小法廷の判決の趣旨に徴しても明白である。なお論旨は原判決の留置一日に相応する金銭的換算率が低きに過ぎると非難するが如くであるけれども刑法第十八条は罰金不完納の場合の労役場留置期間の割合を所定の範囲内において裁判官の裁量に委ねているのであり本件において原判決が同条所定の範囲内で被告人に対し金二万円の罰金不完納の場合の労役場留置期間の割合を一日金二百円と定めたことは憲法第三十六条その他国民の基本的人権を保障した憲法の条規に違反するところはないといわなければならない。その他所論は懲役刑について仮出所の制度の存することを強調するのみで罰金不完納の場合においては刑法第三十条第二項の存することを無視したものであるといわざるを得ず到底採用することはできない。また所論に鑑み本件訴訟記録並びに原審において取り調べた証拠に現われている一切の事実を精査すれば論旨の指摘する諸般の情状を斟酌しても原審の被告人に対する量刑は相当であり重きに失するものとは認められない。それゆえ各論旨はいずれも理由がない。

よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却すべきものとし主文のとおり判決する。

(裁判長判事 中村光三 判事 河本文夫 判事 鈴木重光)

控訴趣意

本被告事件に対する宇都宮地方裁判所栃木支部の判決は刑の量定不当である。

事実

本被告事件は当初に宇都宮地方裁判所足利支部に於て懲役六月に処すると実刑の言渡を受け東京高等裁判所に控訴し右裁判所に於て原判決を破棄、宇都宮地方裁判所栃木支部に移送され右裁判所に於て懲役五月及罰金弍万円に処する旨の判決あり、その懲役刑については三年間その刑の執行を猶予された事犯である。

理由

(イ)本被告事犯に対する宇都宮地方裁判所栃木支部の判決は刑の量定形式的に不当である。

刑事訴訟法第四百二条の趣旨に関し原審懲役刑の実刑の場合控訴裁判所に於てその刑期を延長しその刑の執行を猶予する場合、或は更に之れに罰金を併科する場合右法条に戻らない旨の幾多判例がある。然し右判例も刑の軽重に関する一般的理論ではなく、かかる場合の刑の軽重は具体的事情に基き前刑後刑を比照して決すべきである。其の時前刑懲役六月の実刑を、後刑がその懲役を一月減じて五ケ月となし、罰金弍万円を併科し、その懲役刑の執行を猶予したことは被告人の現在の生活状態弍万円を労役場留置により消滅せしむるに百日を要することを、実刑懲役六月は六十日にて仮釈放されること等と対比しその他諸般の事情を考慮するとき刑事訴訟法第四百二条の趣旨に戻るものである。

(ロ)本被告事件に対する宇都宮地方裁判所栃木支部の判決は実質的に重きに失する。

其の証明は本被告事犯に対する前の控訴趣意書第二点(記録六十二丁六十三丁)をその儘引用する。

右事情にあるので本被告事犯に対する宇都宮地方裁判所栃木支部の判決を破棄その罰金刑を減軽相成度し。

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